Shall we dance?

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十王院財閥が主催するパーティは、身内レベルの小さなものからメディアも入る大々的なものまで年に数多もある。もちろん全てに出ていたら身がもたないので、カケルは重要だと思うものだけピックアップして出席しているのだがーー今回のパーティは、カケルにとってその「出席する価値のある」パーティだった。

そんなとあるパーティで、カケルは1人の見知った女性を見つけ、慌てて駆け寄る。

「わんばんこ〜☆」
「あ、カズオくん」

そしてひょいと後ろから顔をのぞかせひょうきんに挨拶してみせた。

「んもー、だから俺の名前はカ・ケ・ル!ただでさえこの場じゃみーんなカズオカズオって呼ぶんだから、なまえさんくらい、そっちで呼んで欲しいにゃ〜」
「はいはい、カケルくん」

なまえがそう呼ぶと、カケルは満足そうに笑い手に持っていたグラスをチン、となまえのそれに当てた。

「かんぱーい」
「いまさら?」
もうパーティは始まって20分は経つことを暗に含め、なまえは笑った。
「いつやったっていいんですよん、こういうのは」
「まぁ、そうかもだけど」

ノンアルコールのスパークリングドリンクを飲み、なまえは笑う。
今日は立食形式のパーティで、各々が小さな集まりを作り話し込んでいる。この機を逃すまいと、カケルはなまえの隣をキープした。

「そういえば、ありがとうカケルくん。カケルくんの一声のおかげで、だいぶトントン拍子に話が進んだよ」
「いやいや〜。それはなまえさんのプレゼンが良かったからですよん♪俺っちはそれを知らせただけ」
「そうかなあ、だいぶカケル君に助けられちゃった気がしたけど」
「そんなことないですって」
カケルはからからと笑い、スマショを取り出す。
「専用のSNSでリアルタイムでプリズムショーに対する反応を出して、データ化する。これって俺っちが進めていきたい事業ともリンクするし、絶対伸ばしていくべきですよ」
カケルはそう言いながらスマショをスクロールさせる。
「なまえさんが立ち上げたプリズムショー専用SNS、これから絶対ヒットしますって」
なまえが昨年公開したそのSNSのログインページを画面に出し、カケルは得意げにウインクした。
「そうだといいけど。所詮素人だしなぁ、私」
カケルが笑う。
「大学生の企業コンテストかなんかで賞もらってたじゃないですか」
「まだまだぺーぺーだよ」
「もー、謙遜しいなんだから」

なまえは大学在学中に企業し、その界隈では少し有名な現役大学生だった。なまえの、プリズムショーに対する考え方や展開の仕方が気に入って、カケルは早々になまえの提案するプロジェクトに名乗りを上げ、あっという間にプロジェクトは現実のものへと階段を駆け上がっているところなのだ。

「まあ、カケルくんがそれだけあのプロジェクトを気に入ってくれてるのは嬉しいよ」
だからこんなに話しかけてくれるんでしょ、となまえははにかんだ。
「…んー、ちょっと違うかな」
「え?」
「プロジェクトに載ったのは、純粋に事業として面白そうと思ったからです。でもなまえさんに頻繁に話しかけてるのは、違う目的があるから、ですよん♪」
カケルはそう言ってウインクを決めたーーが。
「?違う目的?買収とか?」
そう、事も もなげに口にするなまえに、がくりと肩を落とす。
「ん、うーーん、いや、俺っち、なまえさんのそういうところ、嫌いじゃないっすよ……」
「へ?」
「いや〜なんでもないっす。…それより、今度俺っちと2人でナイトクルージングでもしません?」
「いいね、楽しそう」
「でしょ、でしょ?!」
身一つで来てくれればあとはぜーんぶこっちで用意するんで!と意気込むカケルに、なまえはくすくすと笑う。
「でもそんなの私と2人じゃもったいないよ。彼女とかと行った方がいいんじゃない?」
カケルはその言葉に再びがっくりと肩を落とした。これをわざと言ってるわけではないのはこれまでの付き合いで分かっている。本当にそう思って言ってるからタチが悪いのだった。
「もー、前も言ったでしょ。俺っち彼女募集中なんです〜」
「えー?カケルくんだったらその気になればいくらでも見つかるでしょ?」
「…その気になってんですけどねぇ…なかなか捕まらないみたいで」
捕まらない、というところを強調して、なまえをちらりと見遣る。が、なまえは頭の上にハテナマークを浮かべ、そうなの?と他人事のように呟いている。

ーー難攻不落。
その四字熟語がふとカケルの頭の中を巡った。

「…いや、前途多難、かにゃ〜」
頬をかき、カケルはため息をついた。
なまえはそんなカケルにきょとんとしながらも、何かを思い出したかのように人差し指をぴんと立てた。
「そうだ。ナイトクルージングもいいけど、私見たいものがあったんだった」
「え?何ですか?なーんでも言ってください!即用意するんで!」
カケルが勢いを取り戻し、なまえに食いつき気味に話しかけると。
「うん、あのね、カケルくんのプリズムショーが見てみたいなって」
にこりと微笑む、なまえ。
「えっ」
不意を突かれて、カケルはつい固まってしまった。
「カケルくん、エーデルローズ所属なんだよね?一度見てみたいなあ」
「え、ほ、本当ですか?」
「うん。わたし男子のプリズムショーってあんまり見たことないけど…カケルくんのプリズムショーってどんな風なのかすごく興味ある」
カケルを少し見上げるように笑うなまえに、カケルは柄にもなく顔を赤くさせる。
「そ…それなら俺っち、なまえさんのために全力で☆プリズムショーしちゃおっかな〜?」
照れを隠すように思わず茶化すと、なまえはくすくすと笑った。
「うん、本当に待ってるよ。もしショーやる日とか決まったら、またメールで教えてね」
「え、ええもちろん…あ!なまえさん、メールじゃなくてLINE教えて下さい!仕事用のメアドじゃなくて、個人的な方」
「ん?うん、いいよ。確かにそっちの方がいいか」
なまえがQRコードを出し、カケルが読み込む。初めのスタンプを送りあって交換完了。
(…っしゃ♪念願のなまえさんのLINEゲット〜〜!)
内心ガッツポーズを決めながら、カケルが喜んでいると、なまえはスマショをしまいながらカケルに声をかけた。
「じゃあまた、連絡待ってるね」
「ええ、迅速に送りますんで!」
「あはは、カケルくん仕事早いもんね〜」
手を振り、またねと一言添え、なまえはさっとどこかへ行ってしまった。
捕まえられそうでするりと逃げていく。最も本人にはそんなつもりもないんだろうが。カケルはふう、とため息を一つつきともだち欄に増えたばかりの名前を見る。

「…さて、エーデルローズのプリズムショー企画でも考えますか〜」
カケルはスマショを胸ポケットにしまいながら、鼻歌交じりに企画案を考え出したのだった。