カケルのお悩み相談室

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なまえと少し距離が縮まったように感じたタイガだったが、あの時感じたなんとも言えない気持ちはまだ拭えないまま心中に巣食い続けている。

タイガはそれをはっきりさせるべく、気がすすまないがある人物を頼ることとした。
ドアをノックすると、ややあって返事が来る。

「ん〜?誰〜?入っていーよん」
その声に無言でドアを開けると、椅子に座っていたカケルがくるりと半回転しこちらを向き、ん?と片方の眉をつりあげた。
「めっずらし〜。誰かと思ったらタイガきゅんじゃーん」
「今いいか?」
「いいよ〜。あ、最近発注した人をダメにする座椅子、使う〜?」
「なんだよそれ…いらねえよ」
「んじゃ俺っちが使うねん♪」
カケルはやたらにリラックスした格好で座椅子にもたれ、タイガをちらりと見遣る。

「んで、どーしちゃったの?今日は」
「…ん…」
いざとなると言い辛い。言い辛いというか、どう言えばいいのかわからない。なにせタイガ自身よく分からない感情、なのだ。

「…この前、なまえさんに会った」
「へ?!なにそれなにそれ」
突然カケルががばりと起き上がる。
「いや、偶然…会っただけだけどよ」
「…タイガきゅんから声かけたの?」
「え…まあ…」
照れ臭そうに首に手を置くと、カケルは身を乗り出し目を爛々と輝かせる。
「やるじゃーん!んでんで?」
「…や、でも」
「ん?」
「…その。…そん時話してたら……なまえさんって、カヅキさんが好きなんじゃねーかと思って…」
言いながら視線を落として行くタイガに、カケルはははーん、と頷いた。
何があったかは分からないが、それで妙に落ち込んだ顔をしているのか。
(カヅキさんねぇ…そんなことないと思うんだけどにゃ〜)

「ふーん。なんでそう思ったの?タイガきゅんは」
タイガは少し口籠もったあと、ぽつぽつと話し出す。どうやら要するに、なまえがカヅキのことを素敵な人だとやたら褒めていた、ということらしい。どんな雰囲気でそれが言われたかは、二人のみぞ知るところではあるが。
「…ん〜でもさ、それだけじゃ早いんじゃない?そりゃカヅキさんを褒める人はいても貶す人なんていな…あ、シュワルツにはいたか…くらいしかいないでしょ」
「…そうだけどよ。でも親戚だし昔から知ってるし」
「親戚だからこそそういう対象で見てないかもしんないじゃん?」
「いやでも小さい頃からあんな人見てたら女だったら惚れるだろ!」
「…いやそれはタイガきゅんのファン心理が入りすぎてる気がしなくもないけど、ま、とにかく分かったよ」
カケルは眼鏡をくいっと持ち上げる。
「は?何が」
「いや、タイガきゅんが落ち込んでるっぽい理由」
「は?」
「なまえさんがカヅキさんを好きだとしたらさ。自分じゃ敵わないって思ってるんでしょ?」
「か……は?!はあ?!そ、そういう意味じゃねえよ!!」

タイガは意味を理解したあと瞬時に真っ赤になる。
やれやれといった様子でカケルは首を横に振った。
「いや今の話どう考えてもそうでしょ〜?もー。まさかまだ認めてないの〜?」
なまえさんを好きだってこと、とカケルが付け加えると、タイガは真っ赤になって下を向いた。

「いやだから別に!そーゆーんじゃねーって…」
「はいはい、じゃあなんなの〜?てゆーか気になったから声かけたんでしょー?」
カケルはふと、追いかけている音ゲーのスタミナが満ちたことを思い出し、徐にスマホでゲームを立ち上げながら言う。
「……」
「…まあ、タイガきゅんの性格上、認め難いのも分かるけど」
ログインボーナスをタップし、カケルは続ける。
「客観的に見たら、そこまでいったらもう気持ち誤魔化してる方が辛いと思うけどねん。いいじゃん、もういっそなまえさんに聞いてみたら?」
「は?何を…」
「いや、カヅキさんのこと好きなのかって」
「は?!で、できるわけねーだろ!」
「…タイガきゅんって案外ヘタレだよね〜」
カケルは聞こえない程度に小声でそっと呟く。
「あ?」
「なんでもなーい。だってなまえさんのこと別に好きとかじゃないなら、聞けるでしょ、むしろ」
「え…」
「好きじゃないんならなまえさんがカヅキさんのこと好きでもどうだっていいことのはずだよね〜?そんな程度のこと日常会話のついでに聞けるでしょ〜?」

カケルはちらりとタイガを見る。
少し意地悪だったか、と思いフォローしようかと考えていると、タイガが急に立ち上がり、自分の頬を両手で挟むようにバシッと叩いた。
突然のことに、さすがのカケルも慌ててスマホを置く。

「ちょ、ど、どーしちゃったのタイガきゅん。俺っち言いすぎた?」
「や……俺、高架下行ってくる」
「はっ?!」
「悪い、また後で話す!」
「え…ちょっタイガきゅ〜ん?!」

上着だけひっつかんで走っていくタイガの後ろ姿を見ながら、ストリート系って分からない…と一人呟くカケルであった。