最高のお返しを、君に①

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夕食も食べ終わり、お風呂にも入り、各自が部屋に戻って寝静まる頃ーー

「さぁて、パックもしたし、明日に向けて寝ましょうっ」

いつも通り夜10時前には寝るようにしているレオは、ベッドの横で肌を触りながら呟く。

そんな時だった。
ーーコンコン。

こんな夜中にドアをノックする音が聞こえ、レオは首をかしげる。
(ユキ様には先程おやすみの挨拶をしたはずですし…誰でしょう?)
「はぁい」
ドアを開けると、そこにはレオが最も予想していなかった人物。
「…夜中に悪ぃ」
「たっ、タイガくん?!」
思わず声をあげると、タイガは慌てたようにキョロキョロと周りを見渡しながら、しー、と人差し指を口元に当てる。
それにつられたように、慌ててレオも口に手を当てて小声で話す。
「…ご、ごめんなさい。えっと…なにかあったんですか?」
「や…あの。…なんつーのか…」
タイガは頭を雑に掻き乱しながら、視線を斜め下に向ける。
「…とっとにかく!…ちょっとツラ貸せよ」
タイガにはその気はないのだろうが、もともと愛想のいい目つきをしているとは言い難いタイガにそう凄まれると、レオが肩をすくめてしまうのも無理ないことだった。
(ひっ…?!わ、わたしなにかしてしまったんでしょうか…?!)
レオは少し怯えながらも、不良に呼び出された転校生のように恐る恐るタイガの後をついて階段を下って行った。

 

 

誰もいない食堂で、端の席の方だけ電気をつけると、タイガはレオの向かい側に回り、腰を下ろした。
「座れよ」
「あっ、はっはい…」
促されるまま椅子を引いて腰掛け、レオはタイガをちらりと見る。
時計の針が動く音だけがしばらく聞こえたかと思うと、タイガがすう、と息を吸った。
「…あっ、あのよ」
「はっ、はいい?!」
「…なにビビってんだよ」
「だっだって…!」
タイガくんの雰囲気が怖いから、…とはとても言えず、レオは冷や汗をかく。タイガは無言でレオを睨んだーーように見えたが、タイガにはそのつもりはなかったのかもしれないーー後、突然ドン、とレオの目の前になにかを置いた。
首を傾げてレオがそれを見ると。
「…え?雑誌、ですか?」
「あ、あー…」
タイガをみると、ほのかに頬が赤くなっている。
「…あー、あの、なんつーか…その、あれだろ。お前…よく、なんか女が好きそうなモンとか付けてるだろ」
「…へ?可愛いものってことですか?付けてる、っていうと…えっと、リボンとか、ハートモチーフのものとか、あとカラフルなヘアアクセとかはもちろん大好きですけど…」
「あ、あーその、そういうやつ」
「…で、それがなにか…」
話が見えてこないレオは、再び首を傾げる。
「……ったろ」
「え?」
「や、だから!あーあの、なまえさんに…俺、もらったろ、チョコ」
「…え?ああ、バレンタインデーのお話ですか?タイガくん、もらってましたね!可愛らしいチョコ!」
レオが手をぎゅっと胸の前で握り、思い出したように笑顔になる。
「あ、ああ。…ん、んで、だから…あれだろ。お返し、っつーか…その。した方がいいんだろ…なんか」
タイガがぼそぼそと斜め下を見ながら呟くと、レオは目を丸くして言う。
「え?あ、ホワイトデーに、なまえさんにチョコをもらったお返しをしたいってことですか?」
「……!……っ、まっ、まあそうだけどよ……」
さんざん濁してきたことをズバリと真正面から言われ、タイガは赤くなり顔をそむける。
「…でも俺、女がどういうもん喜ぶかとかよくわかんねーし…お前ならそういうのよく知ってるかと思って」
「あぁ~、そういうことですね!」
ようやく合点がいったとばかりにレオがぽんと拳を手のひらで受け止める。
(よぉ~し、これは責任重大です!)
レオがぐ、と拳を握り力を入れる。
「そういうことならもちろんお安い御用です!頑張って手伝いますよ~!」
「お…おう。助かる」
タイガがほっとしたように息をついた。

 

 

「…それで、例えばどんなものを贈ろうと思ってるんですか?タイガくんは」
「え?!や…えっと…」
歯切れが悪いタイガに、レオは遠慮なく今しがたタイガが開いた雑誌のページを見る。
「あ、これいいですね♪ブレスレットとかアンクレットなんかだと、全体的にプチプラだけど可愛いのがあったりしますし…可愛いヘアピンとかバレッタなんかも、いくつあってもいいものだしお返しにはちょうどよさそうですよね♪」
「……お、おう」
レオの言葉の半分も理解できていないが、タイガはかろうじて頷いた。
「でも私、なまえさんを見かけたことがないんですよね…タイガくん、何か、なまえさんの写真とか持っていませんか?」
「え?!べ、別に顔見なくてもいいだろ…」
「お顔というより、こう、服装とか含めた全体的な雰囲気というか…どういうファッションがお好きかどうかで大体こういった小物の好みも分かりますし」
「…そ、そういうもんなのか?」
レオの言葉に押され、タイガは渋々スマショを取り出す。気恥ずかしいが、いくつかあるなまえの写真から全体が写っているものを選び、ん、とぶっきらぼうにレオに差し出した。
「ありがとうございます♪…わあ、すっごく可愛い方ですね…!あ、これタイガくんとのツーショじゃないですか!わぁぁ素敵です~!これってカヅキさんのショーを見に行った時のですか?あ、そういえばこの時今思うとタイガくん服装気にしてましたよねーー」
「だああ、よ、余計なことはいーから服とか!見ろって!」
「あ、すみません。…うんうん、なるほど。一見するとシンプルで上品な感じなんですけど、よく見るとバッグやアクセサリーに使われているモチーフなんかは結構可愛い感じですね♪だとすると…」
「……」
レオが一転して真剣な目つきになり、うーん、と考え込む。その前でタイガはゴクリと唾を飲み込みながらその様子をじっと見ていた。
レオはぱっと目を開けると、すごいスピードで雑誌をめくり、どこから持ってきたのかどんどん付箋をつけ、もう一度初めから雑誌を見直し、付箋をはがし…といった作業を続ける。
(…な、なんかわかんねぇけど、す、すげえな)
タイガはただただその様子を見守っていた。
「…うん、よし!」
レオはふう、と息をつき額の汗をぬぐうと、タイガに付箋つきの雑誌を見せた。
「とりあえず3個くらいに絞ってみました!私たちでも買えそうな価格帯で、安っぽく見えなくて、なまえさんのファッションに合いそうなもの――っていう条件で。あとは、タイガくんが決めてください♪」
「お、おう……え!?ここから俺が決めんのかよ!?」
「そりゃあ、最後はタイガくんが決めなきゃ。大丈夫ですよ、これならどれも可愛いと思いますから」
「で、でも俺マジでなんにもわかんねえし」
「簡単なことですよ♪…つまり、この3つから、タイガくんが、なまえさんが身につけたら可愛いなあ、似合うなあって思うものを選べばいいんです」
「え……」
「私よりずっとタイガくんの方がなまえさんを知ってるんですから。最後はやっぱりタイガくんが、贈る人が決めた方がいいですよ♪」
「う……で、でも」
「大丈夫ですよ〜。きっとなまえさん、喜んでくれるはずです。頑張ってくださいね♡」
レオがタイガの手をぎゅっと握りしめる。
タイガはうう、と悩む様子を見せながらも、最終的には頷く。
「…わ、わかった。考えてみる。…あー、ありがとな」
タイガが髪の毛を触りながらぶっきらぼうに礼を言うのを、レオは満足気な顔で見て笑った。

 

 

 

*****

 

 

 

バタン、とドアを閉め、レオは時計を見る。夜10時から半分ほど回ってしまった長針を見て、お肌のゴールデンタイムを思い出し慌てて寝る準備をする。
(…でも、たまにはこんな日があってもいいですよね)
ふふ、と笑いながらベッドに潜る。
(タイガくん、なまえさんのこと本当に好きなんだなぁ。うまくいくといいですけど…)
目を閉じて、ふと思い出す先ほどのシーン。
(あ、そういえば…。タイガくん、いつも私が触ると驚いたり嫌がったりするのに…)
思わずタイガの手を握ってしまったことを、今更ながらに思い返す。
(でも、全然動じてなかった…ですよね。というかあんまり気付いてなかった、というかーー)
レオは部屋の中で一人ふふふと笑った。
(…それって。きっと今なまえさんのことで頭がいっぱいで…なまえさんにドキドキしてるからですね…♪タイガくん、少しずつ変わってるんだなぁ…)
そんなことを思いながら、寝つきのいいレオはすっと眠りに入る。
タイガのホワイトデーがうまくいくとよいなと願いながら、レオは笑顔で眠り込んだ。