まっすぐに

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夕食後、各々が食器を片づけている最中だった。ふとスマショが気になり、タイガは部屋の隅に座って通知をチェックする。

「うわっ」
思わず大声をあげてしまったことで、周りのメンバーがなんだ?とタイガをちらりと見る。タイガは慌てて口を手で覆った。
(なまえさんからLINE来てんじゃねーか!)
すぐさま通知をタップすると、表れるなまえのメッセージ。

ーーこの間はありがとう!楽しかったよ〜。またよかったら誘ってね!

「……」
「タイガきゅんどーしたの?顔ニヤけてるよ~ん」
「は!?べ、別に…」
慌てて腕で顔を覆い、表情を引き締め、キッとカケルを睨む。
「いや、遅いって。俺っち見ちゃったもんね~。タイガきゅんがなまえさんから来たLINE見てニヤついてるとこ☆」
「なっ、なんで分かんだよ!?」
慌ててスマショを隠すように後ろ手に持つと、カケルは目を少し大きくさせた。
「あ、本当に合ってたんだ。カマかけただけなんだけどねん」
「は…?んな、おめぇなあ!」

再び食堂で言い争うカケルとタイガだったが、とある三人が食堂のドアを開け入ってきたことから、その争いはピタリと止む。

「や!久しぶりだね」
「元気にしてた?」
「お、メシ終わったとこか。惜しいことしたな~」

ヒロ、コウジ、カヅキがそろって登場する。Over The Rainbowの3人がそろったことで、一気にエーデルローズの食堂は華やかになった。

「カヅキさん!ヒロさん、コウジさんも…お疲れっす」
「わぁお。今日はどうしたんですか~?」
タイガとカケルがそれぞれ反応すると、なんだなんだーーと食器を片付けていた他の候補生たちも顔を覗かせる。そして三人を見かけてタイガとカケル同様に驚き、歓迎する。
「わぁ、三人揃うなんてなんだか久しぶりですね♡」
「わー!みんな揃うなんて、僕嬉しいです!」
「皆様、お元気そうで」
「カヅキさん、ご飯なら三人の分がまだありますよ」
「おお、マジか!ありがとうなミナト!」
「今日はどういうメニューにしたの?」
「えっとですね、今日はこの前お歳暮でいただいたあの牛肉を軽くソテーして…」

コウジとミナトがそのまま調理場に消え、何やらレシピの話をし始めたところで、ユウがフン、と腕を組みヒロを睨む。

「別にヒロなんていなくても、エーデルローズはこの俺様が守ってるからな。今更来たって…」
「そっか~、ユウは僕がいなくて寂しかったんだね?」
「はああ!?何をどう聞いたらそうなるんだよ!おかしーんじゃねーの!」

ユウの頭をポンポンと手で触れながらヒロがウインクをすると、ユウはその手の下で顔を赤くし断固として抗議をした。
そんなユウとヒロを尻目に、タイガはカヅキに近寄り声をかける。

「あの…カヅキさん。今日はどうしたんすか?」
「おお、タイガ。いや、俺たちももうすぐ卒業だしな。忙しくても、なるべく帰れるときは寮に帰ろうって決めてんだよ。あとな…その」
「?」
あのカヅキが珍しく、少し言いよどむ。
何かあったんすか、と口を開きかけたところで、その様子をみていたヒロがタイガに向けてウインクをした。
「そうそう、タイガ。後で僕の部屋に来てくれるかな?」
「へ?ヒロさんの?…っすか?」
虚をつかれて、タイガは目を丸くする。
「そうそう。僕たちも行くからね。あ、カケルも来てもらった方がいいかな?」
調理場の奥からコウジがひょっこりと顔を出し、付け加える。突然指名をくらったカケルもまた目を丸くして驚いた。
「へ?オバレと俺っちたち、ですか?そりゃまた珍しい――」
そこまで口を開き、カケルは、あ、と思い当たる節があったかのように呟いた。
「あー…もしかして、そういうことだったりします?」
「は?」
「多分カケルが今思ってることで合ってると思うよ」
「あー…あーなるほど、ねん」
「え?は?ど、どういうことだよオメェ!」
「いやいやいや、俺っちも知らないって、こればっかりは」
ヒロとカケルのやりとりを、それぞれが言葉を発するごとに首をそちらに動かしながらタイガが不審がる。他の候補生たちも、何を話しているのか、といった様子で首をかしげていた。
「ま、ひとまずミナトの飯を食おうぜ!」

カヅキの一声で、何となく全員が席に座る。タイガは首をかしげながらも、しぶしぶ近くの椅子に腰かけた。

 

 

 

 

 

「…で、僕の部屋に来てもらった理由なんだけどね」

夕食後、ヒロの部屋にはヒロ、コウジ、カヅキ、そしてカケルとタイガが集まっていた。ヒロはベッドの上に腰かけ、他の4人はそのヒロを囲うように円となって床に座っている。カケルだけは自らの部屋から「十王院御用達フカフカクッション」なるものを持ち出し、その上に座りこんでいたが。

「は…はい」
まだ何の話なのか全く察していないタイガを尻目に、カケルはやや心配そうに頭をポリポリと掻いた。
「…俺っち今なんとなく予測ついてますけど~…それ、大丈夫っすかね?その、なんていうか…」
「は?」
「一応、三人で話した上だし…まあ、無理強いはしないからね」
「え?」
コウジの言葉に、タイガは眉をひそめる。一体何を言いたいのか。さっぱり話がつかめない。
「あの…マジで何の話してんすか?」
「いやーそりゃ、ほら。なまえちゃんのことだよ」
ヒロがさらりとその名前を口に出すと、カケルはあちゃー、と額に手を置き、当のタイガはみるみるうちに顔を赤く染めていった。
「へ?……は、はあ?!」
「タイガがなまえちゃんを好きなようだから、僕たち何か力になれないかなって思って」
コウジがより詳細に伝えると、タイガは耳まで真っ赤になり、口をぱくぱくと動かすだけで精一杯な状態になった。
「へ…は…な、なん……」
「え?」
「あーこれはですね、多分、『なんで知ってるのか』『なんでそんなことをするのか』ってことをタイガきゅんは言いたいんだと思いますよ~」
カケルが通訳をすると、タイガはカケルをきっとにらむ。
「うるせえよカズオ!」
「え?!なんなのそこははっきり発音できるの!?」
「…悪いな、タイガ。俺は一応止めたんだが…」
二人の勢いに勝てなかったと首を下げて謝るカヅキに、タイガははっと正気を取り戻す。
「あ、謝らないでください!」
「いや、でも……お前、本当になまえのことが好きなんだな。今の反応を見てさすがに俺でもわかったよ」
「へ!?あ、ぐ……」
タイガは再び顔を真っ赤にして俯く。そしてそのまま、苦しげな声で目を瞑り、すんません、と呟いた。
「え?何がだよ」
「いや…その…俺。カヅキさんのことチャラついてて生ぬるいって言ってたのに、当の俺がこんな……す、好きとか…そんな…」
「ええ?」
その掠れたタイガの言葉に、オバレの三人は顔を見合わせた。
「タイガ。何言ってるの」
「え?」
涙目になったタイガが、ヒロの言葉に思わず顔を上げる。
「タイガが何を『チャラついてる』と思っているかは知らないけど…少なくともそういうのは、チャラチャラしてるって言わないんじゃない?」
コウジが静かにウインクをする。
「…コウジさん」
「タイガ。お前、真剣なんだろ?」
「え?」
「なまえは俺にとっても大事な友達だし、親戚だ。だからもしお前が、ハンパな気持ちでなまえにちょっかいかけようと思ってんだったらーー」
「んな訳ないっす!!俺はなまえさんのこと、マジで好きでっ、守ってあげたくなるっつーか、その、半端な気持ちで思ってるわけ…じゃ」
カヅキが真剣な目で問いかけ、思わずタイガは大きな声を出してしまう。そのことに気が付き、語尾を小さくしながら、タイガは再びカヅキから視線をそらして俯いた。
カヅキはそんなタイガを見て、にかっと笑う。
「だったら、それはチャラついてなんかねーだろ。むしろ、そこまで真剣に誰かを好きになれるのは、すっげーアツいことだと、俺は思うぜ?」
カヅキは左手を握りしめ、ぽす、とタイガの肩を軽く押した。
「カヅキさん…」
涙目になったタイガが、カヅキを見てほっとしたように息をつく。
「そうそう。どっちかに決められない男より、一途に誰かを思ってるなんて、なかなかストリートらしいというか、かっこいいじゃないか」
ヒロがカヅキをちらりと見て、人差し指を銃の形にし、タイガを指す。
「おおお、おい、その話は今はいいだろ!」
「ははは、冗談冗談」
「え?な、なんすか?」
さりげなく引き合いに出されてしまったカヅキは、顔を赤らめてヒロに抗議する。ヒロは両手のひらを上に、にこりと笑ってそれを流した。訳の分からないタイガは一人混乱している。
「ま、まー、とにかく!めでたくタイガきゅんの気持ちを確かめあったところで、具体的な話に進みませんか?」
細部の状況までは知らないものの、なんとなくそれらの事情まで把握済みのカケルが、手をパンと打ち話を進める。そうだね、とコウジも同調した。
「悪い悪い。そう。それで、タイガのなまえちゃんドキドキ大作戦なんだけど」
「どうなんだ?そのセンスは」
「あの俺…今更ですけど、これに参加するしか選択肢はないんすか…」
ヒロがノリノリな中、カヅキとタイガのストリート陣がぽつぽつとぼやく。しかしそれをさらりとスルーしてヒロは進めていく。
「タイガはなまえちゃんが好き。でもなまえちゃんはどうなのかいまいち分からないんだよね。――ね、カヅキ?」
「え?あ、あー…印象はいいとは思うけど。よくわかんねえな、あいつも俺もそんな話あんましねーからよ…」
カヅキは照れ臭そうに頭に手を置く。
「でもまあ、前話した時には、『タイガくんは優しい』だとか『気遣ってくれる』だとか――『話してると楽しい』って言ってたけど」
「え……」
タイガは初めて聞く第三者を介したなまえからの評価に、ぱっと顔を上げた。
「……タイガきゅんが『優しい』ねぇ……」
「…何が言いてえんだよカズオ」
「いや~、ヤンキーよっぽどなまえさんの前ではいい子にしてるんだにゃ~と思って♪」
「……そりゃ…ちょっとは…そうなるだろ…」
オバレの手前、激高し辛いのか、タイガはブツブツ言いながら顔を逸らした。
「あと彼氏はいないってよ」
「よし。やっぱりチャンスは今だな」
ベッドの上で足を組み、ヒロはパチンと指を鳴らす。
「とりあえず次のデートプランを練るか!…コウジだったら、次はどうする?」
この中で唯一の彼女持ちであるコウジに、ヒロは顔を向ける。
「ん?ん~…そうだなあ。タイプが違うからなんとも言えないけど…僕だったら次のデートでもう告白するかも」
「ひゅ~、さっすがコウジさん」
「さすがだな、コウジ!」
コウジの言葉に盛り上がるヒロとカケルに反して、ストリートの二人は目を丸くし、やや青くなりながらコウジを見ていた。
「え……そ、それは、は、早くないっすか…!?」
「俺も、もう数回はデートした後でいいかと思ってた…」
「ん~。だって好きなんだし。相手も好意を持ってくれてるんだから…」
にこりと微笑みながらさらりと言うコウジに、カヅキとタイガはものすごい大人を見るかのような目でコウジを見つめた。
「ストリート系は奥手だなあ」
ヒロは笑って二人を見る。
「まー、でもなまえさん今受験中ですし、タイガきゅんのキャラからいっても実際次で告白は難しいっすね~」
「そうだね。やっぱり今は、少しずつ仲を深めていくのが良い手なんじゃないかな」
リアリストな二人――カケルとコウジ――は、冷静に話を進めていく。
「あ、そうそう。それで、これはどうかなと思ったんだけど――」
コウジが一枚のチラシを取りだし、5人の輪の中央にそっと置く。
「さすがコウジ!えーっと、ん?これ、スケートリンクのチラシ?」
「あ~、そういえば新しい所ができるんですよね。N駅の近くに…スケートリンクだけじゃなくて色々な食べ物屋も入ってて、更にスケート以外のスポーツも楽しめるようになってるとか。『総合アミューズメントパーク』って銘打って結構宣伝してますよねん」
ま、うちは噛んでないところなんで複雑ですけど~とカケルは片手のひらをひょいと上げる。
「さすがカケルだね。でもちょうどよさそうだね、ここ。スケートならタイガはお手の物なわけだし。…なまえちゃんってスケートできるの?」
「ん?いやー、あいつほとんど滑ったことないと思うぞ。高校入ってからはどうか知らないけど…俺の知る限りじゃな。少なくともプリズムショーはやったことないはず」
「じゃあ逆にいいんじゃない?ほとんど滑れないなまえちゃんを、タイガが手取り足取り教えてあげれば」
「あ、いーっすねそれ♪」
「い…いや、ちょっ、待ってください」
自分の発言がない内にとんとん拍子に決まっていくところに、タイガはなんとか割り入った。
「あ、あの…つってもなまえさん受験生だし、そんな暇ないんじゃないんすか。それに『滑る』とか縁起悪そうだし…」
それを言うならばオバレ三人もそうなのだが、元々多忙な仕事と学業を両立してきた三人なので誰もそこには疑問を抱かなかった。
「まー、半日くらいなら、多分大丈夫だと思うぜ。あいつ頭いいし、模試も安定してきたって言ってたしな」
「『滑る』は気付かなかったな。タイガ、さすがだね。なまえちゃんのことよく考えてる」
ヒロがウインクすると、タイガは「やっ…別に…たまたまっす」と肩を縮こませた。
「まぁそこも含めて、なまえに打診すればいいだろ。そういうの、断れないタイプじゃないしな、あいつ」
「…そうっすね…」
(…やっぱ、カヅキさんなまえさんについていろいろ知ってんだな)
関係の長さが桁からいっても違うのだ、知っている量に差があるのは仕方ないとはわかっているものの――たまにチクリチクリとタイガの心に棘が刺さる。
「よし!じゃあさっそく、来週の土曜にしよう!タイガは、なまえちゃんを誘う。で、OKだったら、俺たちもついていこう!」
ぐ、っとガッツポーズをとりながらヒロが立ち上がる。
「え?俺っちたちも行くんですか?」
「は!?い、いや、そんな…いいっすよ!付いてこなくて」
「大丈夫、俺たちその日三人ともオフだし」
「いやいやいや、三人揃われたらめちゃくちゃ目立ちます、って!」
「サングラスとマスクをしていくよ」
「そんな三人組いたら更に目立つっすよ!」
「ん~、じゃあ、ウィッグでも被って…」
「な、なんでそこまでして…」
気分が高揚してきて、一人でああでもないこうでもないと変装について考えをつぶやくヒロ。その影で、コウジが小声でタイガとカケルに話しかける。
「ヒロはね、こういう…なんていうか、青春のようなことをしてみたいんだよ。ほら、自分じゃ愛・N・Gを掲げててできないし…『後輩の恋路を応援する先輩』をやってみたいんだと思う」
もちろんタイガを応援する気持ちも同じくらいあるけどね、とコウジがフォローになっているのかなっていないのか分からない台詞をさらりと吐いた。
「う…」
「僕たちは極力気配を消してるから、…ヒロの言う通りにしてあげてくれないかな?」
コウジににこりと微笑まれると、二人は到底断れない。
「悪いな、タイガ」
「あ、いえ…その、どのみち、…なまえさんに、連絡はしたかったんで…俺、とりあえず聞いてみます」
「おう。いい返事来るといいな」
カヅキとタイガが話していると、ヒロがいいことを思いついた、という顔で、なあ、と皆に声をかける。
「こういうマスクをつけるのはどうだ?仮面舞踏会で使った――」
コレだよコレ、とヒロが目元だけが隠れる派手なそれを手にして、顔にかざす。どう考えても方向性を違えてきているヒロに、全員が打ち合わせもなしに声を合わせた。
「「「「――ヒロ(さん)、それは違う(っす)……」」」」

 

 

 

 

ひとまずなまえの返事待ち、ということでヒロの部屋から解散となった4人は、それぞれの部屋へと帰って行った。
カケルは十王院御用達のクッションを脇に抱えながら、自分の部屋のドアノブを下げる。
(初めは、ヒロさん若干暴走してるな~なんて、思ってたけど)
ドアを開け、中に入る。クッションをベッドの上に放り投げた。
(…でも、結果的にタイガきゅん、すんなりなまえさんを誘う流れに乗ってるんだよね~。…いつもならここで2,3回反発したりするのに。もしそこまで考えてのあのヒロさんのふるまいだとしたら…)
カケルはそこまで考えて、チェアに座り、キィ、と45度回転させた。
「…さすがOver The Rainbow、って感じ?」
カケルは2つ年上の3人の姿を思い出し、両肩をすくめ、「降参」のポーズをとってみせた。

 

 

続く

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なんかヒロが「さすがコウジ!」ばっかり言ってる気がする…